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「ナイフ」を読んで

ナイフを持つと人は変わるか??

先日,ナツイチということもあり書店で
『ナイフ』(著者:重松清)
をゲットし,読んでみました。

1 ナイフをもたない主人公

主人公は,かつて背丈が低いことでいじめられた
過去を持つサラリーマン。とっても背が低い。
大人になった彼の思考にも,常に
かつてのいじめの経験がつきまといます。たとえ
彼が意識せずとも,彼の深層心理に深く植え付けられた
劣等感。
だからこそ,息子にはいじめられるようなみじめな経験をして
欲しくない,そう彼は思っていました。
しかし,そんな彼の思いも届かず,息子は背が低かったことを理由に
いじめられていました。息子は彼よりも全然背が高いのに。
いじめられているのを悟られまいとする息子,それを察する父親。
表現しようのないやるせなさに苛まれていたある日,彼はナイフを手にします。

2 ナイフをもった主人公

彼は,そのナイフを手にした日から,深層心理にある劣等感
を拭うかのように強い態度をとれるようになりました。
「ポケットには,ナイフがある」
彼はそんな台詞を何度も心の中で復唱し,いままで引っ込み思案だった
場面でも強い態度をとれるようになります。
いつももなら「単なるチビの親父」と
バカにするであろうOL,町中の不良などに対して感じていた劣等感,
恐怖感を振り払い,もはや引け目を感じない。

3 ナイフとは?

①凶器として

そんな彼は,ナイフの鞘を外したとき,勢い余って怪我をします。
ナイフを借りて彼は今まで引け目を感じていた奴等と対等に
構えられるようになるのに,そのナイフで傷がつく。

②ナイフをポケットに入れるかどうかの選択

彼は,いじめられて家に帰ってきた息子にナイフを渡します。
これがあれば,安心だぞ,と。
父親がナイフを持ち歩く狂気に,妻は半ば言葉を失い,息子も
尋常な対応をできない。
だけど,劣等感,恐怖感に押しつぶされそうになって
生きてきた彼が,ナイフと出会ったことである意味で解放された
という一連の流れは,狂気であるものの,自然な流れともいえる。
それが家庭に露呈されたとき,彼のマインドと現実のギャップが
さらけ出される。
結局,息子は,父親から提示されたナイフを携帯しないという選択を
とります。

4 雑感

ナイフを通じて描き出される父親や妻,息子の人間模様には,ストーリーでしか描写できないものがあるのでしょう。このブログを書きながら,この小説の世界は,
極めて表現の難しいものであることがよーくわかりました。
普段の日常で忘却されているけど,奥底で自分のメカニズムを律している感情,過去の経験の蓄積によって作られた価値観,むしろ物事への条件反射的対応や条件反射的な感情,そんなものが描かれている作品かな。
40代になったら読み返したいです。多分,もっと感じることがありそうだから。
by sipoftip | 2007-01-21 02:57 |


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